ある成人式

かかとに小さな金属を打った

先の鋭く尖った革靴。

日曜の夕方。

表参道竹下通り

その靴音が、カツッカツッと響き渡る。

すれ違う少年達の多くから漂う

革ジャン独特の匂いとポマードの香り。

ペチコートにサーキュラースカートの少女達が

跳ねるように坂道を降りてゆく。

お疲れ!

そう言って、互いの手と腕を絡める。

リーゼントとポニーテール、独特の挨拶。

歩行者天国のアスファルトの上を激しく動きまわり、

棒のようになった足を引きずる少年の古着のジャケット。

汗が塩に変わりかけている。

手に持つカセットデッキから流れる

古き良き50年代のオールディーズとロックンロール

日が暮れ、少し冷たい風が吹く竹下通りには、

デル・シャノンの

「Runaway(邦題:悲しき街角)」がよく似合う。





日中の夢のようなひとときと、明日から始まる現実のはざま。

ほんのわずかな、けだるく心地よい時間。





そんな時代が原宿にはあった。





その頃、

竹下通りのちょうど真ん中あたりにあった

一軒の小さな古着屋。

店の名を「赤富士」という。

古着屋といっても

質の良いアンティークを扱っていたので品揃えはいい。

値段は少々高かった。

所有する、数少ない少年のジャケットは、ここで買われた。

安い時給のバイト生活。

夢だけを食べていても空腹を満たすことができた。

それでも、ジャケット1着は、清水の舞台。

当時の聖徳太子が飛んでいった。



お気に入りの、黒にラメの入った渋いジャケットは、

エルビス・プレスリーが結婚式の時に着たスーツのレプリカ。

自分の結婚式にはこれを着るんだ。

青い少年の淡い空想。

ほかに、玉虫や渋めのスーツなどもあった。






少年少女達の季節は、

移り変わる風景と関係なく、

風のように過ぎていく。

時代の流れ。

仕事、夢、恋。

それぞれの熱い思いとともに。






そろそろ、まともなスーツのひとつも必要だよな。






原宿を卒業した、ある冬。

少年は三つ揃えのスーツを買った。

地方から出てきた少年に、成人式式典の招待状など来ない。

なにが、いまさら成人式か。

いじけたわけでなく、ごくごく普通に少年はそう思った。



ひとつの、けじめ。

ひとりの、けじめ。



少年自身のために買った

チャコールグレーのスーツは、思った以上に窮屈だった。






思い出のジャケットたちは

色あせた写真と、

色あせない思い出のなかに。






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07:21 | つれづれ | comments (6) | trackbacks (0) | edit | page top↑